もともと、特許法適用基準の統一性を図るということがその設立の主要な動機であったCAFCが本当にその役目を果たしているのか、各層から懸念の声が上がっています。まず、下の記事にあるように米国最高裁判所は最近、多数の特許案件を手掛けるようになりCAFCのデシジョンを覆しています。
The Federal Circuit was originally created to bring more uniformity to patent law and limit forum shopping. With very few exceptions, the Federal Circuit has exclusive jurisdiction of appeals involving patent law issues from the district courts and the PTO. In recent years, the U.S. Supreme Court has been taking a number of patent cases and reversing the Federal Circuit, but the U.S. Supreme Court certainly can not take all of the patent law cases where it perceives error. In other areas of law, the Supreme Court looks to circuit splits as an indication of an issue being ripe for it to declare the law of the land. In patent law, there are no circuit splits.
Because of this, the Federal Circuit has been criticized for being isolated and for having a sterile jurisprudence. This is based on its status of effectively being the “supreme court” of patent law.
Recently, the U.S. Supreme Court has been asking for briefs from the United States–either the Department of Justice or the solicitor of the Patent Office–at the cert stage to assist in determining whether to review certain patent law cases.
Professors Craig Nard and John Duffy have called for the creation of at least one additional court of appeals to hear patent cases in order to advance the common law in the area. This could be a new circuit court, or the addition of some appeals going to the D.C. Circuit. This would requre a legislative change; patent law reform has long been on Congress’ docket, but seems difficult to pass...(more)
Professors Craig Nard and John Duffy は知財領域でコモン・ロー形成を促すためにCAFCの他にも特許ケースを扱う控訴裁判所を設けるよう求めています。
しかし、新しい知財専門の控訴裁判所を増やすことが本当に知財に関する統一的なコモン・ロー形成に役立つのか私は疑問に思います。その理由は以下をごらんください。
以下の論文はCAFCの曖昧な態度がいかにクレーム解釈を混乱させ、予期できぬ訴訟を巻き起こす原因を作ってきたかを解説しています。
かいつまんでこの論文の内容を紹介します。
- 最高裁におけるMarkman判決により、クレーム解釈は法律問題として判事の担当であることが明確にされた。この判決により、クレーム解釈は法的基準で処理され、CAFCという統一された機関がそれを受け持つことにより、クレーム解釈の基準が生成され結果を予期しやすくなるということが期待された。
- 確かに、この判決以後連邦地裁の判決をCAFCが覆す割合が減少したということが統計的解析で示唆された。
- しかし、CAFCによる連邦地裁の判決を覆す割合は、Cybor事件(1998年, Cybor Corp. v. FAS Techs., Inc.)後しばらくして上昇に転じた。
- Cybor判決において、連邦地裁によって行われたクレーム解釈をCAFCがde novo(最初からやり直し)で行うことをCAFCは決定した。
- その後、Vitronics事件(Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc.)において、CAFCはクレーム解釈はintrinsic evidence(特許明細の記載)に基づいて解釈することを判示した。
- さらにその後、Texas Digital事件(Texas Digital Systems v. Telegenix, Inc.)において、CAFCは従来extrinsic evidenceとして扱われてきた辞書の記述をintrinsic evidenceの一部として扱い、これに基づいて解釈することを判示した。
- その後、Phillips 事件(Phillips v. AWH Corp.)において連邦地裁はVitronics事件での判示に基づき、特許明細の記述に基づきクレーム解釈し、Phillips特許(US4,677,798、以後'798特許と呼ぶ)のクレーム範囲を狭く解釈し、AWHは'798特許を侵害していないとの判決を下した。
- PhillipsはCAFCに控訴したが、CAFCパネルは連邦地裁の判決を支持(2:1)した。
- PhillipsはCAFCに大法廷での審理を要請し認められた。
- 大法廷での争点として、(1)intrinsic evidence優先か?、(2)extrinsic evidence優先か?、それとも(3)どちらが優先というルールを決めることができるのか? などという点が挙げられた
- 結果として、intrinsic evidence優先であるが判事の判断でextrinsic evidence優先としても良いという(どっちつかづの)結果が示された。
- CAFCがde novoでクレーム解釈をおこなうことの是非はこの大法廷では示されなかった。
- 結果として、大法廷前よりもクレーム解釈の原則が曖昧になってしまった。
(下図は3.を裏付けると思われるデータです。全く別の文献から見つけてきました)
1.から13.に関する詳細な内容がこの論文で議論されています。クレーム解釈の基準選択の自由度を判事に与えながら、de novoを続けるというCAFC(これにはCAFCの中にも根強い反対派例えばニューマン判事)の姿勢は、まるでクレーム解釈基準を決める責任を下級審に押し付けておきながら気に入らない判決は容赦なくひっくり返すぞ!!とでも言っているように思えます。CAFCの過去の判決、Vitronics事件とTexas Digital事件において異なる基準が採用されたようにCAFC判事の中でも意見の統一が図れていません。
CAFCは知財に関しばらばらであった色々な判断基準を統一し、特許システムの安定化を図るために設立されたと私は理解しています。この究極の目的を忘れ、CAFCの多くの判事は部分最適(目先の案件を自分の評価基準に照らして処理している。つまり、個別案件に対する最適解追求が最優先であり、最適解ではないが判断基準の統一に資する解の選択がされていない)しか眼中にないように見えます。
この状況を打開する方策がないまま、さらに別の知財専門の控訴裁判所を作ったとして、知財に関する統一的なコモン・ロー形成寄与するどころかさらに混沌状態を深くするとしか思えないのですが、皆さんはいかが考えますでしょうか?
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