2009年5月29日金曜日

特許翻訳 ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム

特許翻訳の基礎と応用」、倉増 一著、講談社サイエンティフィク刊 は訳例が豊富で密度の濃い良い本です。単に、翻訳の教科書というだけでなく特許の法律的側面に踏み込んだ説明があるのにも好感が持てます。


手元において暇がある時は読み返すようにしていますがミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの解説を読んでいていくつか、「ん?」と思う部分を見かけました。ここではその一例を示します。

関係部分を抜粋します。日本語 → 英語 の例題です。
P119-P120
翻訳例題⑬
【請求項1】 被検粒子を含有する試料液をシース液で囲み扇平状に流すフローセルと,
粒子の流れ領域を照射する照射装置と,
照射された粒子を撮像する撮像装置と,
得られた画像に対し画像処理や解析などの処理を行う処理装置と,
処理結果を出力する出力装置とを備えるフロー式粒子画像分析装置において,
粒子の像を不鮮明にする粒子像不鮮明手段
を備えたことを特徴とするフロー式粒子画像分析装置.

1 . A flow particle image analyzer comprising:
  • a flow cell that makes a flat flow of a sample solution containing particles,the solution being surrounded by a sheath solution;
  • a lighting unit that illuminates a flowing region of the particles;
  • an imaging device that takes an image of the illuminated particles;a processor that processes the image;
  • an output device that feeds the results,and
  • means for smudging the image of the particles.

---解説抜粋---

【請求項1】の「粒子の像を不鮮明にする粒子像不鮮明手段」に相当する“means for smudging the image of the particles"は典型的なミーンズ・プラス・ファンクション形式で書かれています.
【請求項2】から【請求項6】は【請求項1】で定義された「粒子像不鮮明手段」を具体的に規定しています.

---抜粋終わり---

問題部分は以下のフレーズです。
 粒子の像を不鮮明にする粒子像不鮮明手段
 means for smudging the image of the particles
確かにこの英文は典型的なミーンズ・プラス・ファンクション形式(means for performing)ですが、この部分をわざわざミーンズ・プラス・ファンクション形式で翻訳する必要はないと思います。
 「粒子の像を不鮮明にする粒子像不鮮明化装置」
とでもして訳すべきでしょう。
こう記載しておけば、特許侵害訴訟においてプロダクトクレームとして解釈される可能性が高まります。means for performingで記載してしまうとミーンズ・プラス・ファンクション形式の推定(反証は可能)が働いてしまいます。特許訴訟時に、特許の権利範囲を狭くするためにミーンズ・プラス・ファンクション形式であるとの攻撃材料を相手サイドに与える可能性があります。
私は電気・機械分野のことしかわかりませんが、意図的にミーンズ・プラス・ファンクション形式でクレームを作成する場面が想像できません。特に1個のクレームの記載において構造的構成要素と機能的構成要素をミックスする(今回の例)必要性は全くないと思います。結果として構成要素が機能的であると解釈されるのは仕方ないとしてもまずは構造的構成要素であると解釈されることを狙って記述すべきだと思います。

ということで、特許的に考えてこの翻訳例は私的にはボツなのですがどう思われますか?

「ん?」の2件目は文例16(WO2004/032303 特表2006-501798)です。この出願をミーンズ・プラス・ファンクション形式と見なしていますがこれは見立て違いで出願人はプロダクトクレームのつもりで出願していると思います。この件に関しては別記事で書きます。

3 件のコメント:

mst さんのコメント...

その本は見ていないので何ともいえませんが、特許翻訳としては仕方がないかなと私は思います。

私は翻訳依頼する段階で「〜手段」という日本語自体を避けるようにしています。(実際は日本出願の時点で手当てします)
通常のスキルの翻訳者ならば
「〜手段」を「means for -ing」
「〜するステップ」を「steps of -ing」
と翻訳するだろうと思うからです。
MPFを意識して勝手に「device」や「apparatus」などと訳されると他にもおせっかいで用語を変えているんじゃないかと逆に不安に思うかもしれません。

まぁ「米国特許翻訳」の手引きという位置づけなら注意書きはないとダメでしょうけど。

toy-san さんのコメント...

mstさん今日は。
「means for -ing」「steps of -ing」は定番の対応表現ですから翻訳者の方ならこう訳すことが多いと思います。実際の場面なら、依頼者側が原文(日本語)をきちんと直す(手段をなくすなど)べきで翻訳者に文句を言う筋合いはないと私も思います。(でも、means that -s としてクレームを訳す翻訳者に私はお願いしたい)ただ、mstさんも書いておられますようにこの本の位置づけは「教科書」ですのでもう少し慎重にMPFの使い方を解説して欲しいと思った次第です。

mst さんのコメント...

返信ありがとうございます。

本を見ていないのでまた憶測になりますが、MPF形式の翻訳例を紹介しておきながら解説がないというのは管理人さんのおっしゃるとおり教科書としては不十分ですね。

仮に本屋で立ち読みしてたらその時点で棚に戻すかもしれません(笑)